虚愛コレクション

どれくらいそうしていただろうか。

気が付けば体に汗ばみを感じていて、いい加減帰ろうと身を翻そうとしたとき、唐突に視界に人が入り込んだ。

覗き込むかのようにその人は踏み入ってきたのだ。


「ずっと、何してんの?」


首を傾げつつ苦笑い。

通るルートが同じなのだとしたら居ても不思議ではない。

何せ世間は狭い。千代とだって、透佳さんとだってよく出会うのだ。

特別な反応などを示さない様に、仮面を張り付けて笑う。


「……何もしてないよ。ただ、ちょっとボーッとしちゃってた」

「そう?ならいいけど。もう一時間近く経ってんよ?」


と示唆されるのは神楽くんもまた、同じように一時間程私の近くにいたと言うことだ。

しかし、まだまだ暑いのに平然とした顔で笑みを浮かべている。


「あはは。何してんだろうね?私。神楽くんはどうかしたの?」

「いや?偶々ちぃと別れるとこ見掛けて何となく気になったから。……ちぃと西君の事、とか?」

「!」


ビクッと体が跳ねた。

『人をよく見てる』

彼の言葉が脳内で再生され、それと共に笑わない目の事も、何を考えているのか分からないと言った事も思い起こされた。

何を考えているかなんてものは誰の事も分からないが、笑わない目と言うのがどうも分からなかった。

だが、それよりも先に今の話の内容のことだ。
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