虚愛コレクション


よく分からない人だなと思いながら、ふと彼の手首に視線を向けると黒いリストバンドが目に入った。

長袖を着てはいるようだが、袖を捲っているのでよく見える。そして丁度傷があるだろう部分が上手く隠れていた。


「今日はリストバンドしてるんですね」

「……ああ、うん。大学で掻きむしっちゃうと大変だからね。……切るから意味ないけど」


ポソリと言った言葉も私は聞き逃さない。

どうやら彼はそうとうイカれているようだ。そして私も。

彼の口から発せられる言葉を聞く度に、高揚にも似た感覚が沸き起こっていた。

もちろん、悟られてはいけないので表には出さない。代わりに差し障りのないように、笑ってみせる。


「透佳さんは、大学生なんですね」

「うん」

「何の勉強してるんですか?」

「……教えない」

「……」


何ともツレない人だ。会話をする気などさらさらない。

その瞳はしっかりと私を捉えて離さないくせに。何も言わずに一歩近づいても、手を指と指で絡めてもアクションなど起こさないくせに。

さあ、どうするか。

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