虚愛コレクション
この空間だけは、時間が止まっているみたいだった。この空間だけは外から切り離されているようで、とても心地が良かった。
髪を触っていても怒ったり振り払ったりせず、されるがままの彼。
「そう言えば私不細工ってさっき言われましたね。酷くないですか?」
「今更でしょそんなの」
抑揚のない喋りで、漸く此方に視線を向けてくれた。
色のない冷たい瞳に私が映る。じっと、目を見つめて彼に近づく。
「ね、すりこみって分かる?」
「?すりこみ、ですか?」
不意に何の脈絡も無く、珍しく会話を振ってくる。
また彼の気まぐれに、意味の無い会話でもするのかと。それでも、思いつく事を問い返す。
「生物の授業で習うあれですか?生まれて初めてみた動く物体を親だと思い込む……」
「そう、それ。アンタってそれみたいだよね」
「??」
今日は特に意味の分からない事を言う。
首を傾げて考えてみる。言葉そのままに噛み砕くのなら、私自身を雛に例えて親に見立てた相手に追従していると言った意味合いになるだろうか。
となれば、誰を親に見立てているのかと言うことになるのだが、目の前にいる彼だろうか。いやしかし、こんな話は今更ではないか。
と、考えた所で、きっと彼の事だから今更の事だろうが、意味のない事に変わりはないのだろう。
考えるだけ無駄だと切り替えに前髪を直した。