虚愛コレクション
私の返答を待たずしてさっさと彼は靴を履き、外に出た。私も半ば踵を踏み潰すかのように靴を履き慌ててそれに続いた。
「まだ9時前なので補導はされませんよ?」
「この辺り、ガラの悪い人多いからこの時間から警察に補導されたりするんだよ。って言うより警告位だけど」
歩くのが早い彼の背を一生懸命追い掛ける。彼は振り向く事なく階段を悠々に下り始める。一定のリズムで足音が響き渡った。
案外優しい所もあるものだ。なんて思ったのだが、それも忘れる。付いていって姿を表したのはバイク。
「バ、バイクに乗せてくれるんですか?」
「そう、何、怖いの」
ヒクリと喉が鳴ったのに気づかれたのか、何であれ正直にコクリコクリと頷くも、もはや乗るのは決定事項のようで勝手に私の頭にヘルメットが装着されていた。頭に重みが加算される。
「アンタが俺にしっかりしがみついてれば危なくないよ。もし、しっかりしがみつかないなら落ちて、ぐちゃぐちゃになるからね」
「……」
前言撤回しよう。優しいとは言い難い。
こうなると、丸腰が何十キロものスピードで走る危ない乗り物に乗らなければならないのかと、不安以上の物に襲われて後ずさりをするのだが、それよりも先に早くと促された。
せっかくの私に対する厚意を無下に出来るわけがどこにあるのだろうか。怖々としながらバイクに股がり彼のお腹の辺りに腕を回した。
見たときから細いと思っていたが触れてみるとやはり思った通りで、私の力でも骨を折ってしまいそうだ。
あまりの細さに力を入れて良いのか迷っていたその数秒後、
「っ――!やっ……!」
何の声を掛けられる事もなくバイクは発車した。
体が後ろに引っ張られる。叫びたいのに声は引っ掛かり、私に出来るのは強くしがみつくだけ。
流れる景色なんて見る余裕もなく、ただただ目を閉じて家に着くのを待っているのみだった。