虚愛コレクション
ある意味での恐怖体験を終え、着いた一軒家。私も彼もヘルメットを外し地に足をつけた。と言っても完全に降りた状態なのは私だけで彼はバイクに乗ったまま、エンジンをかけたままだった。
確認するように家を見れば、灯りが灯っていて、どうやら父親か母親がいるらしい。この時間に誰もいないなど、我が家には無いに等しいことなのだが。
何であれ、扉を背にして彼に向き直った。
「……ありがとう、ございました」
「ん。どういたしまして」
十分に体力を消耗した為、はっきりとは言えず力なくお礼を述べた。予想以上恐怖は強かったらしい。運転自体は安全だったとは思うけれど、やはりそれとこれとは別だ。
なのに、私をこんなにした張本人は至って平然で、恨めしくなった。が、彼を恨んでも仕方がない。
少々乱れた髪を今さらに直してから気を取り直す。またヘルメットを被りさっさと帰ろうとする雰囲気を見せる彼に対し、お別れの挨拶くらいはしようとした所で
「祈?何で玄関先で突っ立って……」
邪魔。もとい、母親が登場した。
何でこのタイミングで。と舌打ちでもしたくもなったが、笑顔を作り、振り向いた。
「……――ごめんねママ!もうすぐ家に入るからっ」
自分を作るのは得意だ。
「あらそう?ならいいのだけど……」
「うんっ、遅くなってごめんね」
それに騙されるのは母親で、うちの母親はまだ空気が読める方だと思う。私がすぐ家に入ると言う言葉の意味を拾ってくれ、彼に軽く会釈をして家に引っ込んだ。
彼は会釈すらしなかったのだろうな。と、勝手に想像してから笑みを消し、再び向き直った。