いばらの棘が溶ける夜
夢見る乙女達
降りたったのは、私の自宅最寄駅の1つ手前の駅。
自分の行動に驚いて思わず一瞬立ち止まっているうちに、男性は足どりも普通に歩いていってしまう。
あ~っ、どうしよう!!
いつも考えてばかりで頭でっかちな私は、もう何が何だかわからない半分パニック状態で、男性の後を追いかけた。
顔もよくわからないのだから、周りの雑踏に紛れて見失っちゃいそうだ。
濃いグレーのスーツに、革の黒い鞄。
何やら大きな紙袋を抱えているから、それがかろうじて目印だった。
どうしよう、どうしよう!!
改札を出る前に言わないと。
見ず知らずの人に声をかけるなんて、私のキャパシティを完全にオーバーしてる。
頭は暴走気味にフル回転してるけど、改札までの数分では考える時間を許さない。
自らに話しかけてた。
降りたんでしょ!
あなたは、降りれたんだよ!
動けたんだよ。
ここでまた後悔するの?!
それでいいの!!
最後は、自分に
うるさ~い!
もう、どうにでもなれ!!
エイッっと駆けより、スーツの裾を引っ張って「すみません…。」声をかけた。
面倒くさそうに振り返った男性は、思っていたよりも若くみえた。
30歳くらい?
「あの…先程、同じ列車にいたものです。急にすみません。ただ、父が同じように倒れて亡くなったもので、どうしてもすぐに病院に行って欲しくて‥あっ、縁起でもない事言ってごめんなさい。早く病院に行ってください。急にすみません。それだけです。すみません。」
言いたいことだけ言って、すみませんを何度繰り返しただろうか。
病院行ってくださいってのが、わからなくなっちゃうくらい謝っていた気がする。
男性は最初驚いていたものの、年上らしく落ち着いていて「心配していただいて、ありがとうございます。早めに病院に行きますね。」と大人な対応をしてくれた。
私のドキドキは、男性が立ち去った後も止まらない。
わぁ~!
メッチャいい人だった!!
どうしよう~心臓爆発しそう~
電車が到着するまで、この興奮を抑えられない。
私はいつもの仲良しお喋りグループに、Lineをいれた。
(ヤバイ!ヤバイ!!)私
間髪入れず返信がくる。
カノン(何?!)
夢乃(どーした!!)
時には面倒くさくなるくらいの早い反応が、今はありがたい。
絵文字が飛び交う!ここでRikaも参加して、更に飛び交う!
Rika(忘れ物~?)
カノン(定期落としたか?)
夢乃(痴漢?!)
勝手に進んでいく展開のお陰で、私は落ち着いてきた。
(知らない人に声かけちゃったよ~)私
みんなは、また混乱してる。
絵文字の応酬。
ついには…
カノン(告った?!)
Rika(マジ?)
夢乃(ちょっと!ちょっと、ちょっと待って!!)
夢乃(今から集まる?)
勢いは止まらない。
ついには、私よりみんなのが熱量が高くなってきていて可笑しい。
(ごめん、ごめん)私
(違うから、落ち着いて~)私
みんな(り) ←りょうかい
(もうっ!)
(告るならその前に相談するに決まってるじゃん!)私
だよね~。ぐー。そりゃそうだ。って絵文字が同時に入ってきた。
みんなも一息落ち着いたのか、
続く私の言葉を待ってくれてる。
(電車で急に倒れた人がいて、少しして起き上がったんだけどさー、脳梗塞だと動いちゃいけないんだよね。)私
(だから、病院行ってくださいって声かけたの。)私
文字にしたら、たいしたことないなって、自分で思っちゃった。
みんなは、お父さんが脳梗塞で急死してるのも知ってるから、気遣ってくれてか
カノン(偉い!!)
夢乃(まゆ、優しい~)
Rika(惚れた!)
だって。
なんだ~とか、何それ~なんていう返信じゃなくて嬉しかった。
オチのない結果に、ちょっと落胆するような返信が素直な気持ちだろうと思うから。
友達って良いな~
お父さんが亡くなった日、私はこのいつものメンバーで、いつものファーストフード店でお喋りして帰っていた。
私が、1時間早く帰ってたら…
そんな思いがいつも襲ってきては、私を深い森の暗闇の中へ引きずり込んでいく。
こんなに気の合う友達とも、しばらく話をするのが苦痛だった。
今は、そばに居てくれて、普通に接してくれて本当にありがとうの気持ちでいっぱい。
その気持ちを口に出したら、ぜったーい泣いちゃうからまだ言わないけど、ありがとう!って、いつか言えたら良いなと思ってる。
そんな事を思いながら、家路までの道を急いだ。
「ただいま~」
人気のない家に入って、大きな声でただいま~と言うようになったのは最近のこと。
リビングのゲージの中で飛び跳ねているトイプードルのルビーが、きゃんきゃん(おかえり~)と応えてくれるから。
違った!
応えるんじゃなくて、先におかえり~って言ってくれる。
玄関のドアを開ける前から、わかってるみたいで、まだまだ小さな赤ちゃんの鳴き声がきゃんきゃんと聞こえてくるのだ。
ルーは、親戚のおじさんちのプードル花ちゃんが産んだ子を貰った。
本当は、産まれる前から家族が決まってた子なんだけど、家族になる予定のお宅の海外転勤が急遽決まってしまい、お父さんに話がまわってきたみたい。
夕食時に
「親戚のおじさんちの花ちゃん、覚えてるか?」
お父さんの突然の話に、「花ちゃんって誰?」って、弟と2人でシンクロして笑ったな。
お父さんは、急にスマホの動画を見せてきて、
「この子だよ。で、この子達が花ちゃんの子供。」
「うげ~!!!可愛すぎるだろ!!」
弟が、踏ん反り返って騒ぎ出してたな。
花ちゃんのおっぱいを並んで飲んでいる三匹の動画を見たら、もう欲しくてたまらなくって。
弟と2人で
「欲しいです!!お願いします!!」
「2人でちゃんとお世話します!!」
「何でもします!」
今思えば、何でもって…無理難題けしかけられたらどうするんだろう? 可笑しい。
結局、「勉強も頑張ります!!」なんてのも、付け加わって貰うことが決まったんだったな。
犬の赤ちゃんは生後3ヶ月は、お母さんと兄弟と一緒に育つと健康で社会性も身についていいらしく、ルーが我が家に来たのは、あの夕食の日から1ヶ月がたってから。
お父さんも、一緒に我が家に迎え入れ、名前もお父さんが考えた。
7月産まれだから、誕生石のルビーはどうだ?って。
単純だけど、くるくるお目目の可愛いお顔にピッタリかも!宝物だし!!って、みんな大賛成。
ルーを家族に迎え入れて3日後のお父さんの死だったけど、ルーが残された私達家族の寂しさを救ってくれてる。
「ルー、ただいま~」
ぴょんぴょん跳ね上がり、外に出して欲しがってるルーをゲージから出して、さっきあったことをルーに話しかける。
文字にしたらたいしたことないなって、思ったけど、ルーに話しかけるうちに、何が何だかわからなかった ドキドキがぶり返してきた!!
社交的でもない、むしろ引っ込み思案な私が見も知らぬ男の人に声をかける!
「ルー!」
「ミラクル!!だよね!」
すごい、すごい、すごい~!!!
私、やったわー!
自分にドキドキ。
唐突に声をかけてきた怪しい女子高校生に、大人な対応をしてくれた彼を思い出して、ドキドキ、ドキドキ。
ドキドキし過ぎて、制服のままベットの上に倒れ込む。
「ルー、彼は病院に行ったと思う?」
あ~私もやるじゃん!
できるじゃん!!
火事場の馬鹿力ってこう言うのを言うのかな!
しばらくしてワーっと、マックスハイテンションが落ち着くと、やってきました負の波が。
あの人は、急に話しかけられて「病院行ってください」なんて、どう思ったかな?
もっと、冷静にちゃんと話をできたらよかったのにな。
1人焦って、悪いことしてるわけでもないのに顔を真っ赤にして謝っている私は、滑稽だったろうなとか。
そんな事を考えだしたら、ルーがぺろぺろと顔を舐めてくる。
「そうだよね。ルー」
あのまま降りないで帰ってたら、きっと伝えればよかったなってずーっと思っていたと思う。
「お父さんとルーがパワーくれたんだよね!」
自分の行動に驚いて思わず一瞬立ち止まっているうちに、男性は足どりも普通に歩いていってしまう。
あ~っ、どうしよう!!
いつも考えてばかりで頭でっかちな私は、もう何が何だかわからない半分パニック状態で、男性の後を追いかけた。
顔もよくわからないのだから、周りの雑踏に紛れて見失っちゃいそうだ。
濃いグレーのスーツに、革の黒い鞄。
何やら大きな紙袋を抱えているから、それがかろうじて目印だった。
どうしよう、どうしよう!!
改札を出る前に言わないと。
見ず知らずの人に声をかけるなんて、私のキャパシティを完全にオーバーしてる。
頭は暴走気味にフル回転してるけど、改札までの数分では考える時間を許さない。
自らに話しかけてた。
降りたんでしょ!
あなたは、降りれたんだよ!
動けたんだよ。
ここでまた後悔するの?!
それでいいの!!
最後は、自分に
うるさ~い!
もう、どうにでもなれ!!
エイッっと駆けより、スーツの裾を引っ張って「すみません…。」声をかけた。
面倒くさそうに振り返った男性は、思っていたよりも若くみえた。
30歳くらい?
「あの…先程、同じ列車にいたものです。急にすみません。ただ、父が同じように倒れて亡くなったもので、どうしてもすぐに病院に行って欲しくて‥あっ、縁起でもない事言ってごめんなさい。早く病院に行ってください。急にすみません。それだけです。すみません。」
言いたいことだけ言って、すみませんを何度繰り返しただろうか。
病院行ってくださいってのが、わからなくなっちゃうくらい謝っていた気がする。
男性は最初驚いていたものの、年上らしく落ち着いていて「心配していただいて、ありがとうございます。早めに病院に行きますね。」と大人な対応をしてくれた。
私のドキドキは、男性が立ち去った後も止まらない。
わぁ~!
メッチャいい人だった!!
どうしよう~心臓爆発しそう~
電車が到着するまで、この興奮を抑えられない。
私はいつもの仲良しお喋りグループに、Lineをいれた。
(ヤバイ!ヤバイ!!)私
間髪入れず返信がくる。
カノン(何?!)
夢乃(どーした!!)
時には面倒くさくなるくらいの早い反応が、今はありがたい。
絵文字が飛び交う!ここでRikaも参加して、更に飛び交う!
Rika(忘れ物~?)
カノン(定期落としたか?)
夢乃(痴漢?!)
勝手に進んでいく展開のお陰で、私は落ち着いてきた。
(知らない人に声かけちゃったよ~)私
みんなは、また混乱してる。
絵文字の応酬。
ついには…
カノン(告った?!)
Rika(マジ?)
夢乃(ちょっと!ちょっと、ちょっと待って!!)
夢乃(今から集まる?)
勢いは止まらない。
ついには、私よりみんなのが熱量が高くなってきていて可笑しい。
(ごめん、ごめん)私
(違うから、落ち着いて~)私
みんな(り) ←りょうかい
(もうっ!)
(告るならその前に相談するに決まってるじゃん!)私
だよね~。ぐー。そりゃそうだ。って絵文字が同時に入ってきた。
みんなも一息落ち着いたのか、
続く私の言葉を待ってくれてる。
(電車で急に倒れた人がいて、少しして起き上がったんだけどさー、脳梗塞だと動いちゃいけないんだよね。)私
(だから、病院行ってくださいって声かけたの。)私
文字にしたら、たいしたことないなって、自分で思っちゃった。
みんなは、お父さんが脳梗塞で急死してるのも知ってるから、気遣ってくれてか
カノン(偉い!!)
夢乃(まゆ、優しい~)
Rika(惚れた!)
だって。
なんだ~とか、何それ~なんていう返信じゃなくて嬉しかった。
オチのない結果に、ちょっと落胆するような返信が素直な気持ちだろうと思うから。
友達って良いな~
お父さんが亡くなった日、私はこのいつものメンバーで、いつものファーストフード店でお喋りして帰っていた。
私が、1時間早く帰ってたら…
そんな思いがいつも襲ってきては、私を深い森の暗闇の中へ引きずり込んでいく。
こんなに気の合う友達とも、しばらく話をするのが苦痛だった。
今は、そばに居てくれて、普通に接してくれて本当にありがとうの気持ちでいっぱい。
その気持ちを口に出したら、ぜったーい泣いちゃうからまだ言わないけど、ありがとう!って、いつか言えたら良いなと思ってる。
そんな事を思いながら、家路までの道を急いだ。
「ただいま~」
人気のない家に入って、大きな声でただいま~と言うようになったのは最近のこと。
リビングのゲージの中で飛び跳ねているトイプードルのルビーが、きゃんきゃん(おかえり~)と応えてくれるから。
違った!
応えるんじゃなくて、先におかえり~って言ってくれる。
玄関のドアを開ける前から、わかってるみたいで、まだまだ小さな赤ちゃんの鳴き声がきゃんきゃんと聞こえてくるのだ。
ルーは、親戚のおじさんちのプードル花ちゃんが産んだ子を貰った。
本当は、産まれる前から家族が決まってた子なんだけど、家族になる予定のお宅の海外転勤が急遽決まってしまい、お父さんに話がまわってきたみたい。
夕食時に
「親戚のおじさんちの花ちゃん、覚えてるか?」
お父さんの突然の話に、「花ちゃんって誰?」って、弟と2人でシンクロして笑ったな。
お父さんは、急にスマホの動画を見せてきて、
「この子だよ。で、この子達が花ちゃんの子供。」
「うげ~!!!可愛すぎるだろ!!」
弟が、踏ん反り返って騒ぎ出してたな。
花ちゃんのおっぱいを並んで飲んでいる三匹の動画を見たら、もう欲しくてたまらなくって。
弟と2人で
「欲しいです!!お願いします!!」
「2人でちゃんとお世話します!!」
「何でもします!」
今思えば、何でもって…無理難題けしかけられたらどうするんだろう? 可笑しい。
結局、「勉強も頑張ります!!」なんてのも、付け加わって貰うことが決まったんだったな。
犬の赤ちゃんは生後3ヶ月は、お母さんと兄弟と一緒に育つと健康で社会性も身についていいらしく、ルーが我が家に来たのは、あの夕食の日から1ヶ月がたってから。
お父さんも、一緒に我が家に迎え入れ、名前もお父さんが考えた。
7月産まれだから、誕生石のルビーはどうだ?って。
単純だけど、くるくるお目目の可愛いお顔にピッタリかも!宝物だし!!って、みんな大賛成。
ルーを家族に迎え入れて3日後のお父さんの死だったけど、ルーが残された私達家族の寂しさを救ってくれてる。
「ルー、ただいま~」
ぴょんぴょん跳ね上がり、外に出して欲しがってるルーをゲージから出して、さっきあったことをルーに話しかける。
文字にしたらたいしたことないなって、思ったけど、ルーに話しかけるうちに、何が何だかわからなかった ドキドキがぶり返してきた!!
社交的でもない、むしろ引っ込み思案な私が見も知らぬ男の人に声をかける!
「ルー!」
「ミラクル!!だよね!」
すごい、すごい、すごい~!!!
私、やったわー!
自分にドキドキ。
唐突に声をかけてきた怪しい女子高校生に、大人な対応をしてくれた彼を思い出して、ドキドキ、ドキドキ。
ドキドキし過ぎて、制服のままベットの上に倒れ込む。
「ルー、彼は病院に行ったと思う?」
あ~私もやるじゃん!
できるじゃん!!
火事場の馬鹿力ってこう言うのを言うのかな!
しばらくしてワーっと、マックスハイテンションが落ち着くと、やってきました負の波が。
あの人は、急に話しかけられて「病院行ってください」なんて、どう思ったかな?
もっと、冷静にちゃんと話をできたらよかったのにな。
1人焦って、悪いことしてるわけでもないのに顔を真っ赤にして謝っている私は、滑稽だったろうなとか。
そんな事を考えだしたら、ルーがぺろぺろと顔を舐めてくる。
「そうだよね。ルー」
あのまま降りないで帰ってたら、きっと伝えればよかったなってずーっと思っていたと思う。
「お父さんとルーがパワーくれたんだよね!」