彼が隣にいる理由
side 彼
〜side 彼〜


いつもより憂鬱な気持ちで、カウンターの中で自分の仕事をする。

時間が早いこともあって、客はいない。

それを良いことに、俺は盛大なため息をついた。


「どうした、浮気でもされたか?」


何処か楽しそうに笑うのは、俺の雇い主でもある、この店のマスターの彰さん。


「彰さん、冗談でも笑えないです。それに浮気されても、今の立場じゃ何も言えねぇし」

「男なんだからサッサッと告白くらいして、モノにしろよ咲大(しょうた)」


そんなこと言われても、こっちにだって色々事情があるんだよ。


俺と文香さんの出会いは、この店だ。

合コンで引っ掛けられた男と、文香はこの店にやって来た。

男は文香さんに強い酒を飲ませて、潰したところでお持ち帰りでもする予定だったのだろう。

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