彼が隣にいる理由
でも、文香さんは落ちなかった。

それよりも、男の方が先に潰れてしまった。

そんな男のことを申し訳なさそう顔をしながら眺める文香さんに、無性に興味が湧いた。

頼まれてもいないが、俺は文香さんにミネラルウオーターを差し出す。


「強いんですね?でも少し休憩した方が良いですよ」


一瞬驚いた顔をしたが、文香さんは優しそうな笑みを浮かべた。

そんな文香さんを見て、トクンッと胸が高鳴る。


「ありがとう」

「いえ」

「申し訳ないんだけど、この方お願いしても良いかな?」


酔い潰れる客は、決して珍しいわけじゃない。

でも自分のことを潰そうとした相手のことを気にかける人間を、俺は初めて見た。

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