彼が隣にいる理由
職業柄、普通の人たちより色々な女性の相手をしてきた。

でも今まで、こんな女性はいなかった。


「なら、あなたの分は俺が奢ります」


自分でもよくわからないが、気付いたらそんな言葉を口にしていた。


「え?」


案の定、彼女は驚いたように目を丸くする。


「その代わり、また来て下さい」


営業スマイルで、誤魔化すように付け足す。


「上手ですね。でも自分の分は、自分で払います」


そんな文香さんの言葉に、もう来る気がないのだと内心落ち込む。

どうしたら、文香さんを繋ぎ止められるだろう。

そんなことをバカみたいに必死に考えていた俺に、文香さんはチャンスをくれた。


「でも今度来た時は、一杯ご馳走して下さいね」


その言葉が嬉しくて、ニヤけてしまわないように顔を引き締めた。

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