彼が隣にいる理由
「じゃ、お酒は奢って貰うわ。でもその代わり、これはおばさんの相手をしてくれたお礼」


お金を差し出し、足早に店を出て行ってしまった。

次、いつ会えるかもわからない。

もしかしたら、もう此処には来ないからもしれない。

それしたら一生、文香さんに会えなくなるかもしれない。


「ちょっと抜けます」


彰さんに断りを入れ、俺は文香さんの後を追った。


「文香さん」


名を呼ばれ、振り返った文香さんは驚いた顔をする。


「こんなの、貰えないです」

「気にしないで。気持ちだから」

「なら、送らせて下さい」


少しだけでも良いから、まだ文香さんと一緒に居たい俺はそんなことを口にした。


「大丈夫、そう遠くないし。それに仕事中でしょ?」

「遠くないなら、尚更送ります。マスターには言って来たので、仕事は大丈夫です」


文香さんが向かおうとしていた方へと、返事も聞かずに俺は歩き始めた。

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