雨宿り〜大きな傘を君に〜
高校から塾は電車で30分程だ。部活動の参加は強制ではないため授業が終わると塾へ直行することが日課である。
とりあえず母を安心させるために、いい大学に進学して有名企業へ勤めよう。そのためだけに青春全てを費やすと決めているんだ。
「よっ!」
塾の自習室へ入れば、静まり返っている室内の空気も読まずに崎島が満面の笑顔で私を迎えた。
「崎島くんが自習室なんて珍しいね」
嫌味を含めて言うが、彼には届かなかったらしく椅子ごと私の方を向いて笑った。
「大野さんに会いたくて」
「……」
空調設備が程よいはずの部屋で、寒気を覚える。
「アレ?引いちゃった?」
静かにしてくれという男子生徒の痛い視線と、敵意丸出しの女子生徒の羨望の眼差しに囲まれ、無言ですぐに自習室を出た。