雨宿り〜大きな傘を君に〜
電話の相手は間違いなく、有明沙莉さんだった。
菱川先生は、私の引き止める手よりも、有明沙莉さんの電話を優先したんだ。
いつからだろう。
いつから菱川先生の1番に私をしてくれるって勘違いしていたのだろう。
例えそこに恋愛感情がなくとも、私が望めばなんだってしてくれると思っていた。
けれど現実は、先生にとっての1番は間違いなく有明沙莉さんでーー果たして私がその次なのかも疑わしい。
それにやましいことがないのなら、リビングで話してくれてもいいはずだ。わざわざ私のいない場所を選んで、2人はなにを話すのだろう。
会いたいという彼女の気持ちに応えて、先生は出掛けてしまうのだろうか。
彼を引き止める権利を私は持っていない。
そんなこと分かっているのに、やるせなくて、私も急いで廊下に出た。
そして。
コートを羽織って自室から出てきた菱川先生と鉢合わせした。
もう、止めることはできないのだと、悟ってしまった。