雨宿り〜大きな傘を君に〜
ベッドにダイブして、枕に顔を埋める。
どうしてだろう。
何故、有明沙莉さんの元へ行く先生を、こんな気持ちで見送らなければいけないのだろう。
2人には私の知らない事情があることも理解しているつもりでいたのに。
ただただ苦しい。
私の止める手を払い、彼女を優先させた菱川先生なんて、キライだ。
大嫌いだ。
「そっか……」
私は菱川先生が、好きなんだ。
考えないようにしていたけれど、
友達でも、家族でもなくて、
異性として菱川先生を想っているんだ。
ーーハナちゃんに恋愛感情をもつことは、ない。
だからそう宣言されてしまったあの晩も苦しくて、たまらなく悲しくて…。
それでも私はこんな時でさえ泣けない。
初めて失恋したというのに、涙ひとつ出ないなんてね。
「あはは」
乾いた笑いで誤魔化す。
いいや、私の恋が実らなくても。
菱川先生が生きていてくれさえすれば、それで良いじゃないか。2度と会えない辛さに比べたら、失恋くらい取るに足りないことだ。
先生には幸せになってもらいたい。
だから私も彼に迷惑をかけず、崎島のような優等生になろう。
菱川先生が私のことで世話を焼かないで済むように、ちゃんと生きていこう。
夢がないなんて、菱川先生に心配をかけるようなことも言ったらダメだね。