雨宿り〜大きな傘を君に〜
23時。
いつもならまだ勉強をしている時間だけれど、菱川先生のいない隙にお風呂に入って、布団の中にいた。
それでも耳を澄まして足音がしないかをチェックしている自分がいる。
そして23時半過ぎ。
廊下を歩く足音がして、控えめに部屋をノックされた。
帰ってきたんだ…。
更にもう一度、扉が叩かれた。
寝たふりを決め込む。
返事をして扉を開けたら、先生から有明沙莉さんのことを聞けるかもしれないけれど。
冷静に事情を受け止めらる自信がないよ。
しばらく間をおいて立ち去る足音に、胸が締め付けられる。
本当は今すぐ飛び出して、菱川先生のことが好きだと伝えたい。
どこにも行かないで、って伝えたいけど。
それと同じくらい先生の困った顔を見たくないから、口を閉ざす。
この想いは封印してしまえばいい。
翌朝、早めに高校に行って図書室による旨をメモに残し、先生と会わずに家を出た。