雨宿り〜大きな傘を君に〜
最悪で特別な日
友達と外で遊んだことがなかったし、どんな服装で行けば良いか分からないと伝えれば、崎島は制服で良いじゃんと返してくれた。
だからいつも同じ服装で、待ち合わせの駅で待つ。
「おはよう」
彼もまた見慣れた制服にニット帽をかぶり、愛想の良い笑顔を振りまいて周囲の女の子たちの視線を集めていた。
「おはようございます」
改めて休日に待ち合わせをすることは、なんだかいつもと違う感じがして新鮮だ。
「来てくれて良かった」
「約束したから」
面白いな人生って。
少し前までは違う世界に居ると思っていた人と、電車で隣り合って座っている。休日に約束を交わすほど仲の良い友達と言えるのだろうか。
「鎌倉でさ、神社で受験祈願して、食べ歩きしてゆっくりやろうぜ」
「今から受験祈願?早すぎるでしょ」
「善は急げって言うだろ」
顔を見合わせて笑い合う。
少し前までは菱川先生ともこうして笑い合えていたのに。どこでボタンを掛け間違えてしまったのだろう。
ああ、あんな女々しい態度をとらなければ良かった。
電話を持ってリビングから出ようとする先生を止めさえしなければ、今まで通りだったのかもしれないのに。
その"今まで通り"が本当にいいのかは分からないけれど。
「なぁ、大野。最近、浮かない顔してるけど、どうした?」
そうだった。
崎島は私のふとした瞬間の表情をよく見ていてくれて、彼の目は鋭いのだ。