雨宿り〜大きな傘を君に〜
大人の事情
何度も夢に菱川先生とのキスシーンが現れた。
夢とは身勝手なもので、夢の中での先生は私のキスに応えてくれて、"好き"だと返してくれた。
願望が混じったどうしようもないシーンから醒めた瞬間、虚しくなる。なにを想像しているのかと、バカな頭を殴りたい。
このまま目をつぶってしまえば再び続きを見てしまいそうで、起き上がり、キッチンに向かった。
冷たいものでも飲んで、頭を冷やそう。朝まで勉強するのもいいかも。
そんなことを考えていると、不意に玄関の扉が開いた。
「緒方さん…」
廊下で鉢合わせした緒方さんは、大きなキャリーバッグを転がしながら、紙袋を掲げた。
「土産だ」
「ありがとうございます!」
海外で大きなプロジェクトに参加すると緒方さんはしばらく家を空けていた。
「まだ起きていたのか」
「寝れなくて…」
「それならお茶漬けでも作ってくれ。白米が恋しい」
「了解です!」
一旦自室に戻った緒方さんを見送り、お湯を沸かした。