雨宿り〜大きな傘を君に〜
スーツから部屋着に着替えた緒方さんは、男性にしては長めの茶髪を結わきながらソファーに座った。
すぐに明太子をのせたお茶漬けを渡すと、熱さも気にせずに食べ始めた。
「そういえば、托人からメールが入ってた」
「はい?」
残ったお湯でお茶を注げば、緒方さんは私を見た。
「勝手に変なルールを作るなだと」
「すみません…話してしまいました」
「聞いたか、托人のこと」
「聞いてません。緒方さんと約束したので」
「おまえは真面目だなぁ」
笑うとつり気味の目が少し垂れた。
「真面目じゃないです…私、菱川先生に、許可もなくキスしてしまいました…」
驚かれると思ったけれど、お茶漬けを食べる手を止めなかった。汁をすする音までする。
「托人の反応は?」
「私が気にしないように、笑ってくれました」
「良かったな」
はい?
緒方さんは笑いもせずに淡々と言った。
「有明沙莉は、托人とキスすら出来なかった。残念ながらな」
どう反応していいか分からない。
彼女ができなかったことをできたと喜んでいいのか、それともそれほどまでに有明沙莉さんのことを大切にしていた現実に打ちひしがれるべきなのか…。
「聞いてみれば、托人に」
「でも…」
「ルールを変えてやるよ」
緒方さんは器を置いて、腕を組んだ。