雨宿り〜大きな傘を君に〜
何事かと店員さんが近付いてきたが、気にせず有明さんを見る。
「ずっと先生のことを追いかけてた。彼は全然気付かなかったけどね。私との約束通り、教師になる夢は諦めて塾講師なんてやってて、めっちゃ笑った」
「そんな言い方…」
菱川先生はあなたを想って夢を諦めたのに。
「女の影も全くなくて、安心してた。けど突然、アンタがうろうろするようになった。ただの居候か知らないけど、すげぇ目障り」
ガムを噛みながら、思いっきり足を踏まれた。
高いヒールのかかとはとても硬く、思わずバランスを崩す。
「痛っ」
幸いにも商品に影響はなく、尻餅をついた状態で170センチはあるであろう彼女を見上げる。
「おまけに先生が好きだって?ふざけんなよ!」
彼女の気持ちが分かるなんて大それたことは言えないけれど、心から先生のことを愛しているのだと、必死な形相から感じ取れた。
「殴らせろ!」
「え?」
「……一発、殴ったら、アンタのことを許せると、思う……」
だんだんと小さくなり、最後の方はよく聞こえなかった。