雨宿り〜大きな傘を君に〜

自宅に着くまでお互いに探りを入れたけれど、先生は佐渡先生のことを、私は頰のことを、それ以上は語らなかった。


「とにかくクスリを塗ろう。ソファーに座って」


戸棚から救急箱を取り出した先生は軟膏を塗ってくれた。


「…くすぐったいです」


先生の人差し指が直に頰を伝う。

薬を伸ばす手が頰を滑ると、むず痒くて飛び上がりそうになった。


「もう少しだから我慢して」


もっと乱暴に塗りつけてくれたらいいのに。
その手が優しすぎて恥ずかしい。


「よし。またお風呂に入ったら塗り直そうね」


「大丈夫です!自分で塗れます!」


離れた手に安堵しつつ、先生から軟膏を奪い取る。


「遠慮しなくてもいいのにね」


絶対、分かってやってる。

先生の笑みを見て、確信犯であることを察した。


いつも私だけがドキドキして、菱川先生を意識して。恋愛は惚れた方が負けだというけど、まさにその通りだ。

< 151 / 221 >

この作品をシェア

pagetop