雨宿り〜大きな傘を君に〜
自宅に着くまでお互いに探りを入れたけれど、先生は佐渡先生のことを、私は頰のことを、それ以上は語らなかった。
「とにかくクスリを塗ろう。ソファーに座って」
戸棚から救急箱を取り出した先生は軟膏を塗ってくれた。
「…くすぐったいです」
先生の人差し指が直に頰を伝う。
薬を伸ばす手が頰を滑ると、むず痒くて飛び上がりそうになった。
「もう少しだから我慢して」
もっと乱暴に塗りつけてくれたらいいのに。
その手が優しすぎて恥ずかしい。
「よし。またお風呂に入ったら塗り直そうね」
「大丈夫です!自分で塗れます!」
離れた手に安堵しつつ、先生から軟膏を奪い取る。
「遠慮しなくてもいいのにね」
絶対、分かってやってる。
先生の笑みを見て、確信犯であることを察した。
いつも私だけがドキドキして、菱川先生を意識して。恋愛は惚れた方が負けだというけど、まさにその通りだ。