雨宿り〜大きな傘を君に〜
数学の講義。
担当は菱川先生なのに、教壇に立っている女性はーー佐渡先生。
なんで。
立ち上がって尋ねると、
『だってアナタは特級コースから、一般コースへ移動になったのだもの』
真っ赤な口紅がそう答えた。
一般コース?私が?え、いつーー?
「あっ、」
嫌な汗を掻いた。
意識を取り戻せばそこは図書館。
うたた寝をしてしまったようだ。
「崎島、起きて…」
「んっ…」
大きな瞳は閉ざされていて、2人も眠っていた。
椅子の背もたれに寄りかかって眠る崎島の肩を叩く。
「崎島!大変!塾!」
先生からの腕時計は家に置いてきたけれど、柱時計が19時を告げていた。
「嘘だろう?寝過ごした?」
勢い良く態勢を直した崎島は携帯を見て、頭を抱える。私も同じように確認すると、菱川先生から何件かの不在着信が入っていた。
講義は20時間に終了だ。
今から行ってももう遅い。
「とりあえず塾に電話入れとくよ。2人で図書館で寝過ごしたって」
「…うん」
電話をするため図書館の外に行く崎島に、それだけは止めて欲しい。そう言えなかった。
崎島を止めれば怪しまれてしまうかもしれない。ただでさえ崎島は私の先生への気持ちを疑っているのだから。
仕方なく正直な理由を菱川先生にメールしておく。
講義中のためか返信はなかった。