雨宿り〜大きな傘を君に〜
塾を休むこと自体初めてのことだ。
やってしまったな…。
崎島と別れた後、真っ直ぐに家に帰った。
「早いな」
リビングで新聞を読んでいた緒方さんに迎えられる。
「…うたた寝して、塾に行けませんでした」
我ながら情けない理由だ。
久しぶりに身体を動かしたことと、寝不足だったことが原因だろう。
「なんだそれ」
緒方さんは缶ビールを飲みながら首を傾げた。
「疲れてるんだろ、今夜は早く寝ろ」
「はい」
「元気ないよな。なんかあった?」
新聞から少しも目線を上げてくれていないのに、緒方さんは言った。
「托人のプレゼントのことでまだ迷ってるのか」
「まぁ…それもあります」
「高校生に高価なものを贈られても迷惑なだけだ。友達に渡すようなものでいいんだよ」
缶ビールを左右に振り、目配される。
お代わりの合図だろう。
冷蔵庫の定位置から冷えたビールを取り出す。
「それが難しいのですよ」
「色々あるだろう。俺は酒でいいよ」
「…先生はお酒、ほとんど飲まれませんよ。緒方さんの誕生日はいつですか?」
「さぁな」
私からビールを奪うと、プルダブを開けて一気に煽った。