雨宿り〜大きな傘を君に〜
「逃げるな」
低い声は、私を責める。
なにも言えない。
謝って済む問題ではいと分かっているから、謝罪の言葉は言えない。
「これは佐渡先生から頂いたものだ。謝りに行くぞ」
「………」
佐渡先生に直接、謝る?
菱川先生の好きな相手に、謝って、惨めな気持ちに支配されるのだ。
それ程までに先生を怒らせてしまった。
自分のしたことを後悔してももう取り返しがつかないけれど、彼女にきちんと謝ろう。
それしか私にできることはない。
「付いて来い。逃げたら許さない」
「…………はい」
有明沙莉さんの時とは違う頰の痛みに、止める術なく涙が溢れ続けた。