雨宿り〜大きな傘を君に〜
降り注ぐ雨と溢れる想い
タクシーは有名なホテルの前で止まった。
助手席に座っていた先生は支払いをすませると私の方を見ようともせず、タクシーを降りた。
慌ててその後を追う。
ホテル。
もしかしたら2人は約束していたのかもしれない。
大人たちのバレンタインデーはこれからだったのかもしれない。
「早く」
ホテルのエレベーターのボタンを押した先生に急かされて、走る。
2人きりのエレベーターは息苦しく、ずっと下を向いていた。
20階に到着した。
今夜先生たちはこの高い場所で、愛を確かめ合うのだろうか。
立ち眩みを起こしそうになる身体を引きずって、足早に歩く先生の後に続く。
逃げるな。
おまえがしたことだ。
自分に言い聞かせて、制服の袖で目を擦る。
ありがたいことに涙は、枯れていた。