雨宿り〜大きな傘を君に〜
部屋ではなく、ホテルのバーに佐渡先生はいた。
いつもは可愛らしい先生も、煌びやかな場所でカクテルを飲み、大人な女性にしか見えない。
長い髪をアップにしていて、色気が漂う。
「突然、どうされました?」
私の姿を視界に入れた佐渡先生は目を見開く。
「大野さん……?なんで、あなたがここに」
「……」
「ほら、大野。自分の口から伝えて」
大野ーーそれは講義の時だけ、菱川先生が呼んでくれる私の苗字だ。
「酷い顔してるわ。まずは座って」
私を2人掛けのソファーに座らせると、その隣りに佐渡先生も座った。
「大野さん、どうしたの?」
「……」
佐渡先生の問いに菱川先生は口を真一文字に結び、助け舟を出してはくれなかった。
当然だよね……。
「…私、佐渡先生のチョコレートを、故意に踏み潰しました」
打ち明ければ、菱川先生は紙袋をテーブルの上に置いた。