雨宿り〜大きな傘を君に〜
汚れた紙袋を前に佐渡先生は言葉を失ったようだ。しばらく唖然としていた。
「…菱川先生、悪いけれどお会計を頼めます?済ませたら2005号室に来てください」
早口で言い終わると、佐渡先生は私の手をとった。
腕を引かれたままお店の外に誘導される。
慌てて菱川先生を見たけれど、彼は私を見てはいなかった。
そうだよね。助けて欲しいだなんて、甘いよね。
2005号室に無理矢理に詰め込まれ、今度はベッドの上に座らされた。
「どうして、こんなことをしたの」
佐渡先生は私情を挟むことなく、冷静に聞いてくれた。
「正直に話して。それが先生への誠意でしょう」
ああ、そうか。
彼女は菱川先生の恋人としてでなく、先生として私と向き合ってくれているんだ。
口を開こうとすれば、佐渡先生は立ち上がり、濡らしたハンカチを私の頰に当ててくれた。
頰が冷やされる。
敵わない。
私はなにひとつ佐渡先生に敵う要素を持っていない。
「私、菱川先生が好きで……佐渡先生に、嫉妬しました。ごめんなさい」
「もしかして私が菱川先生にチョコを渡すところを見られてた?」
「見てしまいました。本当にごめんなさい」
佐渡先生は深い溜息をついて、紙袋から無残な形になったチョコレートを取り出した。