雨宿り〜大きな傘を君に〜
すぐに菱川先生が2005号室に現れ、私の気持ちを重くさせた。しばらく、会いたくない。
「うわぁ、悲惨ねー」
チョコレートをテーブルの上に並べながら、佐渡先生は明るく言ってくれた。
「本当に申し訳ありません」
床に腰を下ろした菱川先生が深く頭を下げる。
土下座に近い菱川先生の姿に、息することさえ辛くなる。
「いいですよ、済んだことなので。それより大野さんの頰、すごく痛そう。女の子相手に本気で殴ったの?」
「はい」
「最低な男ね」
呆れた口調の佐渡先生に慌てて言う。
「違います。私がチョコを無理矢理に奪って、佐渡先生の気持ちを踏み潰したのだから…菱川先生は当然のことをしたまでです」
「…大野さん、こっち来て」
「はい」
ベッドから立ち上がり、テーブルに近付く。
割れて歪な形になってしまったハート型のチョコレートが、そこにあった。
「気付かない?」
「え?」
ところどころ欠けてしまっていたが、チョコレートの上には何かの文字がデコレーションされていた。