雨宿り〜大きな傘を君に〜

霞んだ目を凝らす。

カタカナの"イ"と、"二"だ。

どういう意味だろうか。



「イと二ですか……」


私の答えに、何故か佐渡先生は笑いを漏らした。


「失礼ね。言っておくけど、あなたのせいで読みにくくなっただけよ。漢字の"仁"よ」


「ああ…仁……」


仁?言われればそうも見える。


「あれ?あなた知らないの?」


「はい?」


不思議そうに問われ、思わず菱川先生を見ると、彼の表情も和らいでいた。



「緒方 仁。一緒に住んでるくせして、名前ぐらい覚えておきなさい」



「緒方……」


聞き慣れた名前が出て、余計に混乱した。



「緒方さんの下の名前は仁なんだ。確かに言ってなかったかもね」


そう私に説明してくれた先生の声色は、いつもと同じで。私の隣りに座り、頰に当てたままのハンカチに触れた。


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