雨宿り〜大きな傘を君に〜
「大野さんの知っているその緒方さんに渡して欲しくて、菱川先生に頼んだの。これは菱川先生でなく、緒方さんへのチョコレート」
まさか。
そんな…。
「一度、緒方さんがうちの塾で特別講義をしてくれたことがあって。それから親しくなって、まぁ、まだ私の片想いだから、菱川先生に頼んだのよ」
隣りにいる菱川先生を見ると、「そうだよ」と頷いてくれた。
「それじゃぁ菱川先生と佐渡先生は、恋仲では…」
「心配しないで、私は緒方さん一筋だから」
幸せそうに笑った佐渡先生はチョコレートをしまう。
私は勝手に勘違いをして、暴走してしまったらしい。
「今から帰って作り直さないと。そういうわけで、この部屋は菱川先生に譲るわ」
「はい?」
「彼女、もう少し休ませてあげなさいよ。体調、悪そうだもの。私だって好きな男に殴られた日には、立ち直れないわよ」
「あ、あの!作り直すなら私もお手伝いします」
「気持ちだけ受け取っておくわ。料理は苦手だけど、彼のためにひとりで頑張るの。それじゃぁ、明日は塾休んだら許さないわよ」
再び謝る隙を与えず、佐渡先生は行ってしまった。