雨宿り〜大きな傘を君に〜
菱川先生と2人残された静かな部屋。
「痛む?」
「大丈夫です」
この間、頰を痛めた時もすぐに治ったから。放っておけば腫れは引くだろう。
「先生、ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど、それでも謝ることしかできないから…」
「また右の頰だね」
「え?」
「有明に殴られたところと、同じ場所」
「……なんで、知っているんですか」
転んだと言い張ったし、有明沙莉さんの名前など一言も出していないのに。
「君が殴られた場面に、なんと佐渡先生が遭遇してね。助けようと思ったけれど、彼女、有明と俺の過去のこと知っているから、知らないフリをした方がいいと思ったんだって。でも俺に話さずにいられなくて、翌日にあのデパートに案内された」
「翌日…」
「君が、崎島と図書館でうたた寝をした日だよ」
その日のことなら、よく覚えている。
携帯を取り出し、先生に見せる。
「この写真…」
「……なに、これ」
菱川先生と佐渡先生のツーショット写真。
それを見た先生はあからさまに嫌な顔をした。