雨宿り〜大きな傘を君に〜
洗面所で顔を洗う。
鏡に映る私の頰と目元は腫れていて、こんな醜態を先生に晒しているかと思うと恥ずかしくて、なかなかリビングに戻れなかった。
今夜の私は最低な人間だ。
菱川先生に嫌われても無理ない。
重たい心に鞭を打って戻ると、先生は窓に寄りかかっていた。
「外はひどい雨になった。泊まっていく?」
「ここにですか?」
部屋にひとつしかないベッドを見る。
窓には大粒の雨。
夜遅くから雨が降るという予報だったっけ。
「いいですよ。私はソファーで眠ります」
シングルベッドを先生に使ってもらえば良いよね。明日の朝に早く帰れば大丈夫。
「…冗談だよ、少ししたら帰ろう」
「なんでですか?もう終電も終わってますし、結構ひどい雨ですよ」
先生の隣りに立って外を見る。
傘があっても濡れてしまいそうな横降りだ。
「なんでって、門限あるでしょう」
「菱川先生と一緒にいるのに門限あるんですか」
いつもと変わりない先生の態度に安心する。
「先生、本当にごめんなさい」
「こちらこそ叩いてごめん。でももし今夜のようなことが起きても、やっぱり俺は同じことをすると思う。考えてみてよ」
綺麗な夜景に視線を移し、先生は言う。
「俺のためにハナちゃんが作ってくれたチョコレートケーキ。もし誰かに踏み潰されたら、我慢ならないから。そいつをぶん殴ると思うよ」
「はい」
「まぁ佐渡先生にも謝ったし、後はハナちゃんの頰が早く治るようにおまじないしようか?」
「おまじないですか?」
先生の顔が迫る。
「俺、おまじないとかジンクスとか好きなんだよ」
女子高校生みたいなこと、言うんですね。
そう言い返す余裕はなかった。