雨宿り〜大きな傘を君に〜
先生の唇が、頰に触れた。
頰に口づけをおとされて、言葉を失う。
お、おまじないって…。
頰へのキス!?
しばらくの間、先生はじっと私の頰に触れていた。
「雨も、門限も関係ないよ」
先生は小さく笑った。
「俺はハナちゃんが欲しい」
なぜだろう。
いつもの微笑みなのに、先生を纏う雰囲気が違う。
「俺も、男だよ。生徒に手を出すことに罪悪感はあるけれど、雰囲気に飲まれそうになってる」
「先生……」
彼の瞳に宿る炎を見た気がした。
「だから俺を突っぱねて、帰るって言って」
「帰りたくないと言ったら?」
「その答えを知りたいのであれば、おいで」
菱川先生はベッドの上に座り、私に手を差し出してくれた。
拒む理由はない。
むしろその手を取りたい。
けれど。
「帰ります」
「……」
先生から背を向けてバッグをとる。
私だって先生と、ここに泊まりたい。
でも私が先生の生徒である以上、泊まってはいけないことくらい分かるよ。
誰かに聞かれた時に正々堂々と胸を張って、純粋に先生を好きだと言うために。
今夜は帰ろう。