雨宿り〜大きな傘を君に〜
「ありがとう。ハナちゃん」
先生も立ち上がり、顔を見合わせて笑った。
「俺の理性が飛びそうになっても、君は俺の良心でいてね」
「もちろんですよ」
菱川先生はフロントで2人分の宿泊費を支払い、タクシーの手配をしてくれた。
「そういえばバレンタインデーのチョコレート、帰ったらくれるって言ったよね。早く帰ろう」
「…渡しません」
「え?」
ロビーのソファーでタクシーを待ちながら首を振る。
「佐渡さんが緒方さんにチョコを渡していないのに、私だけ渡すことはできません。帰ったら、ひとりで食べます」
「残念だ」
「また来年……」
「来年の話をするなんて、まだ少し早いよ。もうひとつのジンクス、試してないでしょ」
「え?」
「ハートのオブジェの前で、写真撮らないと」
雨も、門限も、関係ない。
その宣言通り、先生はハート型のオブジェでの写真撮影に付き合ってくれた。