雨宿り〜大きな傘を君に〜
次の日、鼻水が止まらなかったし、酷い顔だったけれど、高校を休むこともせず塾に向かった。
真っ先に準備室に向かうと、眼鏡をかけてパソコンと向き合う菱川先生がいた。
「こんにちは」
「大野、どうした?」
「佐渡先生に用があって」
講義の準備をしていた先生方が気さくに話しかけてくれたけれど、横を通り過ぎても菱川先生は目を合わせてはくれなかった。もちろん挨拶もなしだ。
その徹底ぶりに笑いそうになる。
いや、佐渡先生の口元は笑っていた。
「ハンカチありがとうございます」
「いいのよ。具合はどう?」
「もう平気です」
顔を覗き込まれる。
「まだ腫れてるわね。しっかりケアしてもらいなさい」
菱川先生に聞こえるような大きな声だ。
「佐渡先生、昨日は…」
「もう良いから。私もやっぱり自分で渡すことにしたから。さぁ、行きなさい」
「ありがとうございます」
深々頭を下げて準備室を後にした。
佐渡先生の気持ちが緒方さんに届くといいな。