雨宿り〜大きな傘を君に〜
しかしその日、いつもは私の後ろを陣取る崎島は席を変えた。
まるで私の断り文句を聞かないと示しているかのように。
「あれ?崎島?席変えたの?」
「たまには気分転換もよくない?」
「おまえって本当に気まぐれだな」
「うっせ。おまえは俺の視界に入るなよ。気が散るから」
「はあ?元々、ここが俺の席だから。崎島が向こういけよ」
やっぱり崎島の周りは賑やかで。
笑い声が響く。
以前の私であればそんな彼を傍観していることしかできなかったけれど。
「気にしないこと。崎島の気まぐれに付き合ってたら、身がもたないよ」
「うん」
特級コースで私に話しかけてくれる仲間ができた。
菊池 杏(きくち あん)ちゃん。
崎島と同じ高校で、かつ特級コースで2番目に優秀な女の子だ。ベリーショートの髪がよく似合う。
菱川先生と付き合えるなら、私が塾を辞めてもいいと思っていたけれど。今は居心地の良い塾が好きだ。