雨宿り〜大きな傘を君に〜
いつものスーパーの駐車場が見えてきた。
「義理も本命もゼロか」
「そのようですね」
「おまえ、やらなかったのか」
「ええ、まぁ…」
宣言通り冷蔵庫に入れたチョコレートはひとりで食べた。
佐渡先生のチョコレートの件を謝るべきか菱川先生に視線を送ると、首を振った。
言わない方がいいという意味だ。
いつかタイミングを見計らって、きちんと謝ろう。
「随分と薄情だな」
「ハナちゃんは勉強で忙しいので。それで夕飯は何がいいですか?」
「胃に優しいものを頼む」
「分かりました。緒方さんの話し相手してやってて」
「はい」
そう言ってひとりで降りて行ってしまった。
「その顔、どうした」
バックミラー越しに緒方さんと目が合った。
つり気味の少しきつい目が、鋭く光る。
「転びました」
「…また有明沙莉か」
知っていたんだ。
「緒方さんも佐渡先生から聞いたのですか」
「ああ」
「今回は違います」
「本当の理由を托人には話したか」
頷くと、緒方さんはミラーから目を離した。
そして深く椅子に座りなおした。
「それならいい」
短い答え。緒方さんらしい気遣いを受けて、昨日の件を心の中で何度も謝った。