雨宿り〜大きな傘を君に〜
優しさに救われた日
商店街の片隅で私たちは向き合う。
「緒方さんから連絡をもらって駆け付けたが、まさかうちの生徒だったとは」
「緒方さんのお知り合いですか?」
緒方さんが心配して塾に電話をかけてくれたと思ったが、菱川先生の口ぶりはそうでなく、
「大学時代の恩師だ」という答えをくれた。
すごい偶然。
「立てるか?」
「あ、はい」
差し出された手に、何のためらいもなく重ねる。冷んやりとした手。よく見たら彼は上着も羽織らず、Yシャツがずぶ濡れだった。
私のせいだよね…。
強い力で引っ張り上げてもらい、立ち上がる。
「タクシーを拾う前に傘を買おう」
返事をする前に、あっさりと冷たい手は離れた。