雨宿り〜大きな傘を君に〜
家主とルール
緒方さんはメールの印象とは大分違った。
もっと年上の人かと思いきや、年齢は菱川先生より10つ年上の35歳。
あの時はパニックで気にする余裕がなかったけれど、電話越しの声も若かったな。
ひょろりとしたモデル体型で、ゆるくパーマがかかった長髪を結わいている。髪色は明るめの茶色。
科学の研究者と名乗り、実験を繰り返すことが主なお仕事で大学の教授でもあるらしい。
この人と母の接点はいったい…。
「初めまして。大野花実(おおの はなみ)と申します」
出張先から帰ってきた緒方さんは私を見るなり、満足そうに頷いた。
「やっと来たか。まったく手のかかるガキだ」
あれれれ。あの丁寧なメールの文章は本当に緒方さんが書いたものかと疑う程に、乱暴な物言いだった。
「緒方だ。君の母親から世話を頼まれてる。いいか、俺にはワガママは言うなよ。俺を一家の大黒柱として敬え」
「は、はい」
居候の身分でワガママを言うつもりはないので、こくこくと頷く。
「なにか不満があったら、全部アイツに言え」
緒方さんはキッチンでお湯を沸かす菱川先生を一瞥した。