雨宿り〜大きな傘を君に〜
「送ってくよ」
塾の正面口で、崎島に捕まってしまった。
「大丈夫です」
「もう8時だし、夜道は危ないだろ?」
バッグを放してもらいたいのに、その力は振り払えない。
「本当に大丈夫ですから」
彼の誘いに乗らない私が珍しいから、かまってくるのだろうけれど。いい加減にして欲しい。
「いいから、行こう行こう」
いっそこのままバッグを投げ捨てて帰ろうか。
そう思って、バッグから手を離した。
勢いよく落下したバッグが鈍い音をたてる。
「あ?」
寒空の下、崎島の顔から笑顔が消えたような気がして、背筋が冷たくなる。
笑わない彼を初めて見た。
バッグを拾って走ったところで、すぐに捕まってしまうだろう。