雨宿り〜大きな傘を君に〜
「好意、ですか」
「崎島の君を好きな気持ちを、甘く見ない方がいい」
淡々とした物言いだった。
菱川先生の助言に従わないせいで、怒らせてしまったのかな。
恐る恐る顔を上げて、先生を見た。
けれど先生はレジ袋に詰め込む手を止めず、視線は合わない。
「本気でハナちゃんのことが、好きなのかもしれない」
「勉強以外のことは話さないし、私のことを崎島は何も知らないのに。本気で好きになるはずないですよ。からかわれてるのだと…」
「それでも十分に注意して。店の場所が決まったら連絡すること。すぐに駆けつけられる場所にいるから」
「ありがとうございます。先生が近くにいてくれるなら、安心です」
「うん。君は俺を頼ればいいよ」
菱川先生は優しい。
塾での先生を見ていると無条件で誰かに優しくするような性格には思えない。
どうしてだろう。
知り合って間もない私のことを気にかけてくれるのだろう。
…私が、可哀想な子だから?
「先生、あまり私を甘やかさないでくださいね」
最悪な考えを吹き飛ばし、笑ってみせる。
誰かの好意をそんな風に思うこと自体、失礼な話だ。
「俺は君を甘やかすと決めてるんだ」
「どうしてですか?」
「さぁどうしてだろうね」
答えになっていない返事。
問い詰めるように先生を見ると、やっと視線が絡まった。
「あの日、震えて助けを待つハナちゃんを見て、もうひとりにしないと決めたんだ」