雨宿り〜大きな傘を君に〜

先生の答えはしっくりきた。

私と、先生と緒方さんを繋げるきっかけになった人物が崎島だなんて皮肉なものだね。

崎島の一件がなかったら私はまだあのアパートに住んでいるだろうし、緒方さんと連絡を取ろうとも思わなかっただろう。


崎島が繋げてくれた縁。


もし崎島が私をからかうことを止めてくれたら、緒方さんの家にお世話になる必要もなくなるのかな。


「今度はなに考えてるの?」


隣りを歩く先生は私に荷物を持たせようとはせず、両手が塞がっている。


お世話になるって自分で決めたことなのに、どうしてまた考えているのだろう。


自分が抱えているであろう不安の正体が、よく分からない。


「先生はどうして塾講師になろうと思ったのですか?」



見えない将来的に不安を感じているのかな?



「緒方さんに勧められて。他にやりたいこともなかったしね」


「そうなんですね…」


「参考にならなくてごめんね」


「いえ!そんなことな…」


なんだか気まずい空気になってしまった。


そうだよね。
やりたいことを天職にできる人なんて、ごく僅かで。大半の人はなんとなく就職して、生きるために働くのだ。

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