雨宿り〜大きな傘を君に〜

出来立ての料理が並び始めるとタイミングよく緒方さんが帰ってきた。

今日は大学で講義の日だったらしく、スーツ姿で決めていた。


「今日は変わったことあった?」


ジャケットをソファーにかけた緒方さんは、いただきますも言わずに煮物に手を伸ばす。


「いえ。なにもなかったです」


菱川先生はジャケットをハンガーにかけてあげると、またキッチンに戻っていく。


「そうか」


テレビをつけた緒方さんは煮物が盛り付けられた大皿の横に、手を伸ばした。
しかし今度は煮物をつまみ食いせずに言った。


「失くすなよ」


テーブルの上に置かれたシルバーの鍵。


「私に?ありがとうございます」


バラエティー番組に視線を向けたまま、小さく頷いてくれた。


合鍵。
小さくて軽いけれど、それは緒方さんから私への信頼の証だ。その気持ちに応えたい。


だから
"托人の女性関係には触れるな"
緒方さんが示したルールを守り、感謝を忘れずに生活しようと思った矢先、


その翌日に私はある"女性"に遭うことになる。

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