雨宿り〜大きな傘を君に〜
なす術なく崎島と目を合わせる。
「さぁ、帰ろう」
何事もなかったように崎島は笑顔を取り戻し、右手を差し出した。
手を繋いで帰ろうとでも言っているかのように。
「さっさと帰れ」
その手を取るしかないのかと躊躇う私の脳裏に響く、声。
菱川先生…。
「あー、今から帰るところですよ」
ね?なんて私に同意を求めてきたけれど、助けて欲しくて菱川先生に訴える。
だけど彼は私を見ていなかった。
「大野、行こう」
手を引っ込めた崎島が歩き出す。
誰もが憧れる制服を着た彼の背中が、少し怖い。
「待て、崎島。おまえはあっちだろうが。寄り道厳禁。親御さんから叱られるのは、こっちなんだから勘弁してくれ」
「ちっ」
今度は菱川先生の耳にも届いたであろう盛大な舌打ち。
「親御さんに連絡するぞ」
「あー、分かったよ。真っ直ぐ帰れば良いんだろう」
ふてくされた崎島はもう私の存在など見えていないかのように、早足で私とは反対の道を走って行った。