雨宿り〜大きな傘を君に〜
「最近、托人の周りにあなたがうろつき始めたから、気になって、声を掛けた」
菱川先生のファンだろうか。
やっぱり堂々と一緒に買い物したから、まずいことになった…?
「あなたは先生のお知り合いですか?」
教師と生徒なら、名前を呼び捨てはおかしいよね。苗字なら分かるけど。
「托人の元カノ」
面倒くさそうに、ガムを噛みながら彼女は答えた。
元カノ?
先生の過去のお相手は想像していたよりも若かった。
「で、アンタは?托人のなに?」
緒方さんのお家にお世話になっていると正直に話してもいいものだろうか。緒方さんに確認しておけば良かった…。
きっと彼女はまだ菱川先生のことが好きなんだ。だから私のことを気に入らず、怒っているに違いない。
「あの、勘違いされてるかもしれませんけど、私と菱川先生は事情があって一緒にいるだけで、恋仲とかそういうものでは…」
穏便にやり過ごしたい。
「アイツのことを先生って呼ぶんだ」
喉を鳴らして笑う彼女と私は随分と目立っているようで、下校中の生徒の視線が痛いほど注がれた。
「アンタには優しいの?甘い言葉を囁いて、味方のフリして、それで結局最後は突き放して見放すの。アイツが吐く言葉は嘘ばっか」
ジャージのパンツのポケットから手を出して、彼女は私の右肩を掴んだ。
先生への怒りを表すかのような強い力が加わる。
「托人のこと、知りたくない?教えてやるよ」
凄みのある表情におされて思わず、頷いてしまいそうになったけれど、ハッと留まる。
もしかしたら菱川先生の過去の恋愛については詮索しないというルールに違反することになるかもしれない。それだけは避けないと。