雨宿り〜大きな傘を君に〜
数学の小テスト。
さすが崎島だ。
彼の予想した問題が提出された。
菱川先生は意地悪だから、引っ掛け問題が好きなんだよね。
崎島のアドバイスを頭の片隅に置きながら、そっと顔を上げる。
黒いメガネと寝癖のついた髪。
私は知ってる。
くたびれたスーツを敢えてクリーニングに出さないことも、休日には傷だらけの革靴からピカピカの靴へ履き替えることを。
クラスで私だけが本当の先生を知っているんだ。
あっ。
顔を上げた先生と視線が絡む。
そして少しだけ頬を緩めて笑ってくれた。
ほんの一瞬。
私だけに送られたエールのような気がして、頷く。
満点をとって先生の期待に応えたい。そう再びテストに視線を戻す。
同じ家に住ませてもらっているからには、彼の自慢の生徒になりたい。それが私を受け入れてくれた先生への誠意だと思うのだ。