雨宿り〜大きな傘を君に〜
学生が多い店内を覗き込み、菱川先生は質問を変えた。
「じゃぁ友達が持ってるもので、君が持ってないものは?」
「…思いつきません」
ブランド品のポーチ?流行りのコスメ?
今時の女子高生の持ち物は多種多様で、次から次へと変わっていく。
「そっか」
短い答えに申し訳なさが募る。
昔から物欲は少ない方だ。
「それなら一緒に選ぼう」
そう言って先生は2軒隣りの聞いたことのあるブランド店に立ち寄った。
高級感漂う店内を歩きながら、私のお財布に入っているお金では足りないことに気付く。
傍に控える店員さんの挨拶を受けながらショーケースを覗き込み、先生の買い物を見守るけれど、彼は男性向けのコーナーには行かなかった。
「先生?男性ものは向こうみたいですよ」
「うん。知ってる。今日は君の物を見に来たから」
「……」
有り難いけど、お金がない。
それにプレゼントしてもらう義理もないよ。
先生の肩を叩く。
うん?
と、こちらを見た先生に顔を近付ける。
店員さんに聞こえないよう、背伸びして小さな声で言う。
「こんな高いもの買えません」
「俺が買うよ」
先生もまた腰を屈めて私の耳元で囁いた。
「遠慮させて頂きます」
「俺からから貰ったものは身に付けたくない?それって結構、傷付くんだけど」
「そうじゃないです!」
思わず声を上げてしまい、店員さんと目が合う。
「…そうじゃないんですけど、でも、こんな高価なものを送ってもらう理由が…」
もごもごと口を動かす私を見て先生は笑った。