雨宿り〜大きな傘を君に〜

学生が多い店内を覗き込み、菱川先生は質問を変えた。


「じゃぁ友達が持ってるもので、君が持ってないものは?」


「…思いつきません」


ブランド品のポーチ?流行りのコスメ?
今時の女子高生の持ち物は多種多様で、次から次へと変わっていく。


「そっか」


短い答えに申し訳なさが募る。
昔から物欲は少ない方だ。


「それなら一緒に選ぼう」


そう言って先生は2軒隣りの聞いたことのあるブランド店に立ち寄った。

高級感漂う店内を歩きながら、私のお財布に入っているお金では足りないことに気付く。

傍に控える店員さんの挨拶を受けながらショーケースを覗き込み、先生の買い物を見守るけれど、彼は男性向けのコーナーには行かなかった。


「先生?男性ものは向こうみたいですよ」


「うん。知ってる。今日は君の物を見に来たから」


「……」


有り難いけど、お金がない。
それにプレゼントしてもらう義理もないよ。


先生の肩を叩く。

うん?
と、こちらを見た先生に顔を近付ける。

店員さんに聞こえないよう、背伸びして小さな声で言う。


「こんな高いもの買えません」


「俺が買うよ」


先生もまた腰を屈めて私の耳元で囁いた。


「遠慮させて頂きます」


「俺からから貰ったものは身に付けたくない?それって結構、傷付くんだけど」


「そうじゃないです!」


思わず声を上げてしまい、店員さんと目が合う。


「…そうじゃないんですけど、でも、こんな高価なものを送ってもらう理由が…」


もごもごと口を動かす私を見て先生は笑った。



< 67 / 221 >

この作品をシェア

pagetop