雨宿り〜大きな傘を君に〜
再び店内を見渡して先生は言う。
「俺も一応、社会人だから。少しは良いものを君に贈りたいんだ。それが大人のプライドだと思って、喜んでくれたら有り難いな」
そんな風に優しく諭されてしまえば、なにも言えなくなってしまう。
彼は大人で、余裕があって、
私はまだ無知な子供だ。
「そうだな…今つけてる時計、拘りある?」
「コレですか?セールで安かったので」
スポーツメーカーのもので、シンプルな機能の腕時計だ。見た目よりも値段で即決した。
「俺が時計を贈ったら、付けてくれる?」
「……」
「もしかして捨てる?」
「捨てません」
聞き方がズルイよ。
「文字盤の色が違うんだね。どっちがいい?」
「……」
ショーケースに視線を落とす。
文字盤よりも値段が気になってしまう。
「どっち?」
「……先生、私、」
先生を困らせない断り文句を探すと、そっと、唇を摘まれた。
ひんやりとした指で唇に触れられる。
嫌ではないけれど、カサカサの唇が気になって仕方ない。リップクリームをもっと念入りに塗ってくれば良かったな。
「早く決めないと、キスするよ?」
は?
意地悪に笑う先生を見れば冗談であることは一目瞭然だけれど、私は大人しく白い文字盤の時計を指差した。