雨宿り〜大きな傘を君に〜

綺麗にラッピングされた紙袋を店員の女性に笑顔で渡された。


「彼氏さんですか?」


「あ、いえ…」


"早く決めないと、キスするよ?"
あの言葉は私にしか聞こえていないはずなのに、彼女には見透かされているような気がして困る。


「そうなんですね、失礼しました」


「いえ…」


お会計を済ませてくれた菱川先生は店員さんの言葉が聞こえているはずなのに、涼しげな表情だ。


「行こうか」


「はい」


まだありがとうございます、と言えていない。


またのお越しをお待ちしております、という声を背に外に出ると冷んやりとした風が吹く。



「怒ってる?」


「え?」


「警戒してる?」


シャッターが下りているお店の前で先生は立ち止まり、向き合う。


「でも君はああでも言わないと、遠慮するから」


「びっくりしました」


冗談だって分かっているけれど。


「君にもクリスマスを堪能して欲しいだけだから。あまり深く考えないで」


「どうして…」


「俺はクリスマスとかバレンタインデーとか、イベントを大事にするタイプなんだよね。あ、チョコレートを催促しているわけじゃないよ」


その言葉にくすくす笑い合う。

なんだか女の子みたいで可愛いな。
前の彼女の影響なのだろうか。


あ。
勝手に先生に恋人がいないと決めつけていたけれど、どうなのだろう。本当は今日も予定があるのかもしれない。それでも私がひとりになることを懸念して、こうして一緒に居てくれるのだとしたら申し訳ないけれど。


気付かないフリをした。


決して私がひとりになりたくないわけじゃなくて。緒方さんのルールに従い、詮索を止めただけ…。それだけだ。

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