雨宿り〜大きな傘を君に〜
助かった…。
バッグを拾い、顔を上げた時にはもう菱川先生は歩き出していた。
慌てて追いかけて、彼の隣りに並ぶ。
あれ、随分と背が高いんだな。
くたびれたスーツとは対照的に背筋を伸ばして歩く彼を見上げる。
「ありがとうございます」
「ああ」
なにが?と聞かないあたり、崎島から助けてくれたのだろう。
菱川先生は何があっても生徒に無関心だと思っていたから、少し意外だ。
「気を付けて帰れ」
そう言って彼は歩調を速めた。
付いてくるなということ?
「菱川先生、さようなら」
声を掛けてみたものの菱川先生はもう返事をしてくれなかった。