雨宿り〜大きな傘を君に〜
「ちょっと失礼」
そう言って菱川先生は私の腕をとり、時計をはめてくれる。腕に触れた先生の熱が気になった。
熱い。
「似合うね」
「素敵です。ありがとうございます」
精一杯、感謝の気持ちを込めたはずなのに、随分と淡々とした物言いになってしまった。
喜怒哀楽を表に出すことが得意でないため、きちんと先生に伝わっているかが不安だ。
「どういたしまして」
「あ、あの!」
柔らかな声で返事をしてくれた先生が立ち上がる気配を見せたため、思わずその腕を掴んでしまった。
「あの、わ、私…!」
何を言いたくて先生の手をとったのか、パニックになった頭では上手くまとめられない。
それでも先生は続きを待っていてくれた。
「本当に本当に、心から嬉しいんです…上手く伝えられなくて、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。それに伝えられていないことは、俺も同じ」
え?先生も同じ?
「ハナちゃんからのプレゼント、本当に嬉しいんだ。どんな高価なものより、君が選んでくれた贈り物がなによりも俺にとって、大切なんだ」
腕を取る私の手に、先生の空いている手が重なった。
「俺に最高のクリスマスをくれて、ありがとう」
手から伝わる温もりと、
穏やかで綺麗な笑顔。
私の心をぽかぽかにする優しい台詞。
それらにどれだけ救われているか、言葉で伝えることは難しい。
だからーー
そんな言い訳をして、
菱川先生に抱きついた。