雨宿り〜大きな傘を君に〜
ただ付いていくと、私の降りたことのない駅のカフェに案内された。
塾は2つ隣りの駅のため、すぐに行ける距離だ。
珈琲を注文して、笑顔の消えた崎島と向き合うこととなる。
「突然、ごめんね。実は大野の家で、結構待ち伏せしてたんだ。話したくて」
「待ち伏せって…」
「でも全然帰ってくる気配なくて、諦めてたところで大家さんに会ったんだ。大野、あの家引っ越したんだな」
「まぁ…」
「それで……お母さんが亡くなったことを聞いた」
非常に言いにくそうな困った顔で崎島は切り出した。
崎島、そんなに申し訳なさそうにしないで。
もう慣れてるから。
近所の人やクラスメートから向けられる同情の視線はもう飽きたよ。
「俺、色々デリカシーのないこと言ってごめんな!今日はそれを謝りたくて」
「それを言うためにわざわざ?」
「塾だと話しにくいし、この駅なら近くに高校もない。知り合いに聞かれることがないと思って」
確かに崎島の言動にはデリカシーが欠けているかもしれないけれど、それを自覚して、謝ってくれて、謝る場所も配慮してくれて。その気遣いは有り難いよ。
「母のことならもういいよ。でも待ち伏せとか、もう止めて欲しい。正直、崎島のことが怖かった」
「…だよな。大野に好かれたい一心で、先走ってた」
ため息をついて天井を仰いだ崎島に思い切って問う。
うやむやにして逃げることはもう止めよう。
「好かれたいって、なんで私?」